蛇口から水滴が零れ落ちる音を聞いていた。一回二回と頭の隅で音を数えてみる。
髪の毛先からも水滴が垂れてきた、ほんの少し目にかかる前髪を無造作に掻き分けると、
温水が大きく揺らめき、同じく大きく円を描いた波紋。ざぶり、ざぶり、ちゃぷん。浴室は音がよく響く。



「銀さんは・・・」



不意に発せられた声に、反射神経が働いた。
視線を彼の顔に向ける。伏せられた瞼に貼り付いた水滴が涙のようにも見えた。



「なんで、僕の事を好きって言うんですか」



言葉を刻むその唇がいつもより赤い。
首から上の肌も赤味を帯びている。随分と色っぽいなあ。思いながら俺は一人で笑った。
すると新八は口を閉じ今度は目だけで訴える、笑ってないでさっさと答えてと。



「いや、その質問どういうこと?もう一回言って」

「だから、何で僕のこと好きなのなかって」

「はははっ」



俺の肩が揺れるのと同じだけ湯船も揺れる。
込み上げてくる笑いが止まらないから、気を逸らそうと浴槽の底に沈めていた手でお湯を救い上げ新八にかけた。
しかしその攻撃に驚いた彼の奇声が俺の笑いを倍増させる。
さっきから浴室には俺の笑い声ばかりが木霊している。



「それじゃあ、新八は水が透明な理由を知ってるか?」

「・・・知らないですよ。水だから透明なんじゃないですか」

「そう、それだよそれ」

「何がですか」

「お前の質問の答え」

「はあ?」

「理解が遅せぇなぁ。俺がお前を好きなことに理由は無いってことさ」



ちゃぷん。俺の声に続いて蛇口の水滴がまた落ちる。
黙り込んだ新八から視線を外して浴槽の底、俺と新八のつま先が向かい合う地点をぼんやりと眺める。
振動が静まりそうにない湯の中に見える足首は、まるで骨を失ったように、ゆらゆらと揺らめいていた。



「意味、わかんないですよ」



新八はすぐに感情が顔に出る。納得いかないと表情が叫んでいた。
吐き出した息でぶくぶくと泡を作りながら顔の半分をお湯に埋め、彼はこちらをじとりと睨んだ。
余り怖くないその目つきに笑顔で答えた後、俺も彼と同じように顔の半分をお湯に埋める。
そして体中にかかる水圧を感じながらふと思ったのだ、そういえば。





そういえば、新八を愛しいと思う感覚は、水中に沈む感覚によく似ている。










おちる