「妙ちゃん、志村妙」




今更だ。
今更言えるはずがなかった。
ほんの小さな頃から何となく気になっていた。
彼女がひどく活発で明るかったという事もあるが、幼心に何かしら気になって仕方がなかった。
幼かった自分は、それがなんなのかはっきりすることが出来なくて、
その想いに名前を付けることなんて出来なかった。
その想いがなんなのかすら当たり前すぎて気がつかなかった。
彼女が時折切なそうにしている事も知っていた。
笑顔の裏にある悲しみを抱えていることにも気がついていた。
ひたむきな彼女を応援していたし、彼女が笑っていればそれだけで心が軽くなった。
つまりは彼女が幸せならそれだけで幸せな気持ちになれたのだ。



「妙、妙ちゃん」



ふと柔らかに微笑んだ彼女にドキリと心臓が止まりそうになった。
この笑顔が自分だけに向けられるものならば。そう思った。
たった二言の短い言葉を飲み込み、何事もなかったかのように普段通り彼女に接する。
どんなに自分が情けなくかっこ悪いことか。
あんな簡単な言葉、どうも思っていなければ言えるのに、自分が本気だと、
真剣だと分かれば分かるほど、言えなくなってしまった。
とんでもない爆弾を抱えているようで怖くて仕方がなかった。
気持ちを伝える事が出来ないほど、自分と彼女との距離は決まっていたし
当たり前の存在になりすぎてしまっていたのだ。




「妙ちゃん、妙ちゃん」





「九ちゃん・・・」

「妙ちゃん」

「そんなに、何回も呼ばなくたって、聞こえてるわよ」

「まあね、ただほら・・・」





好きだよと言えない代わりに名前を呼ばせてよ。







(名前を呼ばれるたびに好きだよと言われてるような気がしていた)