熱視線





その視線に気づかないふりをし続けていた。
捕らえられるともう動けなくなるような気がしていたから。
その目に見つめられたのはこれが初めてではなかった。
包み込むような優しさでいっぱいなその視線。
目が合うと瞳をひゅんと細め眉をくたりと下げ困ったように笑うその瞳に、
深く深く吸い込まれてしまいそうになる。
そんな目で見つめられるとどうしようもなく胸がうずきだして苦しくて泣きたくなったしまうのだ。


そして今日もまた視線を感じて、見ては駄目だと分かっていても顔はそちらに向いてしまう。
太陽の光が零れ、自分の体の神経まで透けてしまうのではないかと不安に駆られる。
私の瞳が綺麗だと九ちゃんは言うけれど、その目はビー玉みたいにキラキラと輝いていて
自分のとは比べ物にならないくらいに綺麗だった。
乾いた手のひらは私の行く手を阻んで、思わず顔を逸らそうと首を動かすと、動かないでというように
顔を近づけられる。


九ちゃんの二の腕。私を閉じ込める檻。


「・・・きゅうちゃん。はな、して 」


九ちゃんの肩の向こう。その向こうは平和な日常がいつもの様に時間を動かしているというのに。
ここだけが何故か異質で、九ちゃんに閉じ込められたこの空間だけが非日常に感じられた。
知らないふりをし続けたかった。
ありふれた日々を彩る世界の隅っこでいつまでも知らないふりをしたままでいたかった。


「・・・妙ちゃん」


低く紡ぎだされる彼女の声に、どうしようもないほどの隠しようもない
甘さを感じ取り、溶けてしまいそうな感覚に陥ってしまう。
私にはもう、逃げ道なんて残ってないのだ。
そうして最後の一言に私はきっと逆らえられないのだろう。





好きだよ