| 手を伸ばせば触れられる距離なのに その距離は果てしなく遠く。 その距離 昔と今じゃ変わらない事もあるけど、変わっていく事の方が多すぎて。 「九ちゃん」 「妙ちゃん、久しぶりだね」 朝もやけが残る、町の中。 仕事帰りだと思われる彼女に声を掛けられ振り向いた。 「最近顔を見なかったけど元気にしていたの?」 「・・・まあね、妙ちゃんのほうは?」 「うん、元気よ、かわらずね」 「そうか・・・」 少し前までならこんな会話なんてしてなかったのに。 会いたいと思えばすぐ会えて、次にいつ会えるのかなんて考えた事もなかったのに。 「九ちゃん、忙しそうね」 ふと彼女が寂しそうな顔をした。 「妙ちゃんこそ。いそがしいんだろ?」 「それはそうなんだけど・・・」 「何、寂しかったの?妙ちゃん」 「・・・九ちゃん」 困ったような悲しそうなそんな表情は相変わらず。 時々照れて俯く仕草も昔のまま。 いつも一緒に居て、それが当たり前だと思っていた。 気がつけば俺の心の中には彼女がいて 離れてしまえばしまうほど彼女の存在は大きくなってゆく。 会えなくなるのがこんなにもつらくて、苦しいのならいっそのこと気づかなければ楽だったのに。 「たえ、」 「九ちゃ」 二人の声が重なった。 「ふふ、九ちゃんからどうぞ」 「いや、妙ちゃんから」 「うんん。何でもないのよ。・・・九ちゃんは?」 「・・・いや、僕も何でもないんだ」 「そう?」 「あぁ・・・」 彼女が困ったように微笑む。 首をかしげると同時に、さらりと揺れる彼女の前髪。 僕は彼女の髪に触れようとしたけどなんとなくためらった。 ポケットに手を入れたまま彼女を見つめる。 「・・・じゃあ、帰えるわね」 「あぁ、気をつけて」 「うん、九ちゃんもね・・・」 そう言って去っていく、彼女の小さくなった背中を見送る。 僕の手はポケットの中で固まっていた。 少し前までは触れられる距離にいたはずだったのに けれど手を伸ばしても、いまの彼女には届かなくて。 当たり前だと思っていた距離は、気がつけば遠いところに行ってしまっていった。 僕の目に映る彼女が眩しくて、背を向けそうになっても向けられず 触れたくても触れられない。 そんなもどかしさの中、僕はどうする事もできずただ彼女の事を想っていた。 いつからだろう? 約束をしないと会えなくなってしまったのは。 「また明日」 君のかわいい声でそう言って欲しかった。 今さらポケットから手を出しても もう、君には届かないのに。 九妙。 なんか片思いばっかりになっていく。 |
||